群馬音楽センターの建て替え問題

群馬音楽センターの建て替え問題

2018-06-11 0 投稿者: guntou

はじめに

私の出身地、群馬県高崎市の街中に、群馬音楽センターという建物がある。

この記事では、公共施設の建て替え問題について、群馬育ちで音楽好きなぼくが、群馬音楽センターを切り口に考察していく。

群馬クラスタだけでなく、金銭面ではない公共事業のあり方や効果について興味のある方にも読んでほしいと思う。

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このホールは1961年、日本近代建築の先駆者ともいわれるアントニン・レーモンドの設計によって建設された。1932席のキャパシティを持ち、現在も数多くのコンサート、舞台公演、式典行事など幅広く利用されている。

2018年春現在、壊す計画はないが、この群馬音楽センターでは、以前より建て替えが議論されている。

なぜ建て替え議論が起きるか

その理由は、建設されてから半世紀経つこの施設では、建設当時の設計思想が、現代に求められているホールの機能を満たしていない部分が多いからである。いくつか例を挙げよう。

観客側に関する問題としては、まず出入り口がある。音楽センターの扉は鉄製で重く、開口部も狭い。車いすなどが入りにくいのはもちろんのこと、緊急時に2000人が素早く避難できるとは言い難いといえる。またおなじくそのキャパシティに対して、トイレの数が不足している点もある。

客席に目を向けると、まず客席列の前後の間隔が非常に狭いことが気になる。あまり快適でないのとともに、誰かが座っていると、中ほどの席まで入っていくのがなかなか困難なのである。014 - 群馬音楽センターの建て替え問題

裏方の舞台関係の設備では、まず幕や反射板などを支えている器具の老朽化で、たわみや軋み音が気になるということがある。また楽屋の数が十分ではなく、個室楽屋もないため、主催者の運営がしづらいことも珍しくないという。

さらに、工学的な部分からの指摘では、音響特性がお世辞にも良いとは言えないそうだ。クラシック音楽では、ホールの残響時間は2秒ほどが最適といわれているが、この音楽センターの残響時間は1.0~1.3秒ほど。あまり響きがよいといえない。

さて、いくつかこのホールの抱える問題点を挙げてみたが、以上の点に関して言えば、予算さえどうにかなれば、まだ修理修繕が可能ではある。しかし、根本的に改善できない問題が1点ある。それは、舞台天井の低さだ。
下図(広報高崎より引用)を見るとわかる通り、群馬音楽センターの舞台天井は構造上、比較的低くなってしまっている。

ongakucenter - 群馬音楽センターの建て替え問題

もともと、建設当時は群馬交響楽団や歌舞伎など伝統芸能の公演を主目的としてつくられたホールのため、舞台天井はそれらに十分なスペースしか設計されなかったようである。しかし、現代の大掛かりな舞台装置やセットが必要な演劇、ロック・ポップスのコンサートでは、この天井の低さが障害となり上演すらできないことも多い。この問題点は、いくら改修をしようにも、建物そのものの構造に起因する事象であるため、改善策がないのである。

建て替えをすべきでないと思う理由

このようなことから、建て替え議論というのは生まれてきたわけだが、私は、群馬音楽センターは建て替えるべきではないと考えている。いくら設備にめぐまれてなかろうが、音響が悪かろうが、そこには歴史があるはずで、それを重んじるべきと思うからだ。もちろん、人々の頭の中に思い出としてきれいに残っているものもあろうが、そこにホールが建っているからこそ、回想したり懐かしんだりできることもあるはずではないだろうか。

小学生時代を高崎市で過ごしたものならば、群馬音楽センターで行われる、群馬交響楽団の音楽鑑賞教室に1度は参加したことがあるだろう。自分自身、生でオーケストラの音を聴いたのはそれが初めてであり、いまでもよく覚えている。それに、地方の小学生でオーケストラを何度も私的に聴きに行けるような環境の子はそうそういるものではなく、子供にとっては貴重な経験なのだ。

また、市の合唱コンクールや吹奏楽のコンクールの会場として、群馬音楽センターは利用されている。学校の体育館とは違う、大ホールだ。人生初の舞台が群馬音楽センターだという人も、この50年の歴史の中でたくさんいることだろう。

そもそも、音楽センター自体の出自をたどれば、群馬交響楽団というソフトが先にあり、それを生かすためのハコとして作られたという経緯がある。無駄遣いと揶揄されがちな行政のハコモノとはわけが違うのだ。さらに総工費のうち、3分の1は市民や周辺企業から寄付でまかなったということであるから、まさに当時、高崎のまちに生活していた人々の遺産なのである。

立地の観点から言えば、群馬音楽センターは高崎の都市空間をかたちづくっているものの一つであるといえる。音楽センター周辺には、高崎駅、市庁舎、商店街、デパート、高崎城址、公園などが並び、高崎市の中央部を形成している。その中でも、ランドマークとして半世紀のあいだ、そこに建ち続けている音楽センターはまさしくそこに住む者たちにとってのシンボルであり、街のイメージの一つでもあるのだ。

 

実は、建て替え議論の中には、群馬音楽センターは壊さずクラシックコンサートなど用途を絞って残し、音楽センターの舞台の欠点を補完できる新たなホールを作ったらどうかという意見もある。

実際、音楽センターのある高崎駅西口エリアの反対である東口側に、2020年に2000人収容規模の音楽ホールが新設される。

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また、西口側にはすでに高崎アリーナが新設されオープンされている。アリーナは体育館としての利用がメインであろうが、音楽ライブ等にも転用可能なようである。高崎市としては、それら新設の施設と音楽センターは切り離して考えているようだが、それらが音楽センターに求められていた役割を担うことができれば、音楽センターの新たな道が見えてくるのではないかと期待している。

確かに、旧いホールは不便な部分もある。自分自身も、音楽センターの狭い座席や、座り心地を快くは思えない。だが、私は、ホールの見てくれを美麗に仕上げ、欠点を隠す方法を考える前に、それもそのハコの味だ、と逆に楽しめるような余裕を養いたい。設備を維持していくことも建造物を守ることだとは思うが、それ以前にその建物への理解を深めて、ある種愛でることこそが守ることになるのではないだろうか。
群馬音楽センターは建物としても美しく、また著名な建築家の作品であるから残すべきなのはもちろんである。だが、それ以上に、そのまちの文化体験の場所として息づいてきた空間を消し去ってはならない。

参考

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